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学校からのお知らせ

入学式式辞
2020年04月09日

式辞   

                       

 「四日市の駅で降りるとバスは山路の峠を走るが、その峠を越すと山峡が俄に展けて一望の盆地となる。早春の頃だと、朝晩、盆地にも霞が立籠め、墨絵のような美しい景色となる。ここの地名は安心院と書いて『あじむ』と読ませる」

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 邪馬台国論争をめぐる松本清張氏の推理小説『陸行水行』に記されたとおり、ここ安心院地域は、今年も「雄大な由布連山の緑」と「春風にゆれる花びらの桜色」、そして「朝夕の幻想的な霞色」がひときわ美しく感じられる季節を迎えました。本日、保護者の皆さまのご臨席を賜り、令和二年度大分県立安心院高等学校入学式を挙行できますことは、本校にとりましてこの上ない慶びであり、衷心より感謝申し上げます。

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 ただいま入学を許可しました新入生66名の皆さん、入学おめでとう。在校生、教職員一同、心から皆さんを歓迎します。

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 ここ両院地域は、江戸時代に85カ所もの寺子屋が存在していたと記録されています。古くから教育への関心が高く、学校は宝物のように大切にされてきました。本校は昭和21年(1946年)に創立されましたが、これは敗戦後の混乱期にあっても子供たちが安心して学べる環境を確保したいという地域住民ひとり一人の熱い思い、深い愛情によって実現したものです。

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 いま、正門を入ってすぐのところ、管理棟と農業棟の間に銅像が設置されています。本地域に学校を建設しようと終戦直後から尽力された四日市農学校安心院分教場校長 原沢省二郎先生のお姿です。先生は着任以来、つねづね4つの点を皆に訴えていたと言います。

     ①「自己の建設」、②「学園の建設」、③「住みよい郷土の建設」、④「新日本の建設」。

「自分たちの学校だけではない、新しい日本をつくるのだ」という壮大な使命を語ったのです。

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 建設許可を得るために、生徒たちは、全員が麦刈りや稲刈りなどのアルバイト、保護者はグラウンド拡張工事に率先して参加、そして、地元10か町村長、町村議会を中心とした県立高校新設後援会は、関係当局に陳情を繰り返したといいます。連合国軍の占領下にあった当時、わざわざ同軍総司令部(GHQ)民政局ルチー学校教育課長を安心院に招聘、建設のお墨付きを求めたそうです。大雪が降るほどの寒さに仏頂面の課長だったそうですが、その表情を変えさせたのは、明るい笑顔で熱いお茶とおしぼり、暖かい湯たんぽを用意した学校事務員の女性だったというエピソードまで残っています。

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 さて、最近よく耳にするのですが、社会には4つの「ジンザイ」が存在すると言われます。
   一人目は、人に材料の「材」と書く「人材」。
   二人目は、人に財産の「財」と書く「人財」。
   三人目は、人に存在の「在」と書く「人在」。
   四人目は、人に「罪」と書く「人罪」。

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 本日ここにいる皆さんは、私も含め、人に材料の「材」と書く「人材」です。でも、同時に人に財産の「財」と書く「人財」でもあるはずです。どんな人でも、何らかの形で、世の中の「たから」、「世の中から必要とされる人」であると、私は思います。

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 では、皆さんはこれからはじまる高校生活をどのように過ごせば、より良い「ジンザイ」となれるのでしょうか。
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 トヨタ自動車社長の豊田章男氏は、「24時間という時間をどう使うか」、その積み重ねによって、皆さんがどの「ジンザイ」になるかが決まると言います。まずは「がむしゃら」に取り組んでみること、「我を忘れるくらい仕事に向き合ってみることからはじめて欲しい」と、自社の入社式で語っています。

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 現在の社会で、「がむしゃら」という言葉から連想するのは、「熱血」・「情熱」・「努力」といったことでしょうか。必ずしも肯定的な言葉としてではなく、どちらかといえば、「自己犠牲」、「滅私奉公」といった否定的な側面、はやりの言葉で言えば「ブラック」な意味あいが含まれているように思います。確かに今は、社会生活における「ゆとり」、「個人の生き方」が大切とされる時代です。異なる価値観をもった人々との関わりが多い昨今の世の中は、とてもストレスを感じやすいのです。

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 でも、こうした時代であっても、物事の本質は、「やってみなければ」わかりません。とりあえず「やってみる」のか、徹底して「やってみるのか」、程度の差はありますが、まず何か好きなこと、関心があることに「とことんチャレンジしてみること」は、決して悪いことではないように思います。

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 昨年、メジャーリーグを引退したイチロー選手は、記者会見で次のように言いました。
   「最低50歳までと、本当に思っていましたが、それは叶わず『有言不実行の男』になってしまったわけです。でも、その表現をしてこなかったら、ここまでできなかったかもしれないという思いもあります。難しいかもしれないけれど、言葉にして表現するというのは、目標に近づく一つの方法ではないかと思っています。」

 さらに、こうも言っているのです。
   「人より頑張ることなんて、とてもできない。あくまで秤は自分の中にある。」

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 新入生の皆さん。どうか安心院高等学校で「これがやりたい」ということを見つけて欲しいと思います。漠然とでもかまいません。「私はこれを実現したい」ということを自分で見つけられるような「がむしゃらさ」を、高校生活を通して身につけて欲しいと思います。そして、できればそれを「言葉」にしてみましょう。そのうえで「現状を評価するための秤」を、自分なりに用意してください。

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 保護者の皆さま、どうか子どもたちの夢を探す手助けをしていただきたいと思います。いくつになっても、ものごとに誠実に取り組む皆さまの姿、「がむしゃら」に生きる姿は、子どもたちにエネルギーを与えます。素敵な大人の生き方を示していただければ幸いです。

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 本校教職員の皆さん、「私たちは子どもたちの人生を預かっています。自分の時間の使い方同様、あるいは、それ以上に、子どもたちの時間の使い方について、行き届いた配慮を行いましょう。私も含め、子どもたちをどう育てるか、とことん悩みながら『がむしゃらに』前へ進んでいくのです。そうした姿をみて、ここにいる新入生も、私たちに全力でついてきてくれる」と、私は確信しています。

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  4年前、本校創立70周年記念式典が行われました。在校生は、当時、次のような決意を表明しています。

   ① 文化を尊重し、地域に貢献する「地元愛」を持つ
   ② 人とのつながりや互いを生かし合う「共生力」を持つ
   ③ 自分に自信を持ち力強く生きる「自立力」を持つ
   ④ 夢に向かいさらなる飛躍を目指す「自己実現力」を持つ

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 これらは、本校に対する保護者・同窓生・地域の皆さまの熱い思いを、当時の生徒が真正面から受け止め、自らのさらなる成長を企図して書き上げた一種の決意文、「自己実現のための挑戦状」です。そして、同時にこれは、敗戦後の混乱期、「私たちの学校だけではない、新しい日本をつくるのだ」と述べた原沢省二郎先生の4つの思いを受け継ぐ本校の「新たな羅針盤」でもあります。

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 新入生の皆さん。今日から乗り込むことになった「安心院高等学校」という新たな船の航路を決めるのは、あなた方自身です。もちろん、私たち教師や保護者、同窓生、地域・連携教育関係校の方々は、全力で皆さんを支えます。でも結局、航海の先、あなた方の未来のあり様は、ひとり一人の心がけによってつくられていくのです。水先案内人は自分自身であることを、決して忘れないでください。

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 あなたの周りにいる人を大切にしましょう。これまで話したこともない人たちと学校生活を始めるわけですから、少し戸惑うことがあるかもしれません。新型ウイルスの流行により、残念ながら、世の中には閉塞感も漂っています。でも、そんなときだからこそ、すすんで前を向きましょう。隣にいる人の良いところを意識して見つけ、互いに認めあってこれからの日常を送るのです。

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 そうすれば、かつて、一人の学校事務員の女性による明るい笑顔が、大雪のなか仏頂面で安心院にやってきたGHQ民政局課長ルチー氏を笑顔にしたように、きっとあなた自身も、今後3年間を通して「あなたの魅力」・「あなたの可能性」に気がつくことができるはずです。
 今日(こんにち)の社会に暮らす全ての人々にとって、元気に高校生活をおくる皆さん一人ひとりの姿は、まさに「希望と安心・勇気」を与える「未来への灯火」 に他なりません。

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                                           令和2年4月9日
     
                                                                 大分県立安心院高等学校
                                                                 校 長  佐 藤  秀 信